前書きに変えて

 新しい話をすると
 いつも真っ先に喜んで頂いたのは
 久保田半蔵門さんだ。
 にこにこと話を聞いてくださった。
 これも一番先に見て頂きたかった。
 この句集を今年遅ればせの三回忌を終えた
 半蔵門さんに捧げる。

 巻頭句を
  半蔵門さんの次の句にさせて頂いた。

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半蔵門さんのこの句を聞いたのが、
川柳を始めるきっかけであった。


その後夜汽車は無くなったが、
背伸びする人の情は
いつまでも変わらない。


天守閣には十年間お世話になり
思い出は尽きない。


この句集のほとんどの句は、
その間に詠んだものである。

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 秋めく夢路葉っぱふみふみ


 折角止めた酒と原発


 出来かけていた砂のトンネル


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見果てぬ夢に二度鳴らすベル


この展開はトゥルーロマンス


影武者乗せて黒の試走車


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2007年アマゾンがキンドルを発売したとき

「図書館を・・」の句を詠んだ、

天守閣の板野美子さんに大変気に入って頂いた。

その板野さんはこんな句を詠んでおられる。

アナログで死のうアナログで生きたから

板野さんのご自宅にはFAXも無い。

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勝手な男今もウェルテル


嫉妬ばりばりかっぱえびせん


あと2キロ痩せてイエスのようになる


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ギターなど弾いた日もあり医者通い


俺の血の味はどうかと蚊に尋ね


育毛剤乗り換えました紫電改


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 手製銃弾は怒りの葡萄かも


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 瓦版の披講が好きだった。
 一筒節も良いが
 咲二節も良かった。
 こんな披講はもう二度と聞けないだろう。

 「時事吟は事実を述べるだけでは
 新聞の見出しになってしまう。
 極意は「批評と風刺、
 そして現状を少しでも良くしよう
 という心意気である。」


 ということを瓦版の会から学んだ。

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にんまりとしてる卵を三つ飲んだ後


詫び方を考えながら歩いてる


黴の字は黒の部にあり黒の意地


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遺言の裏に初版と書いてある


人形に生まれたかった僕の影


真っ白なシャツに残した夏の染み


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縄文の変化見ていた日本猿


カフェラテの泡になりたいシャボン玉


寝ない子が寝かしつけてる縫いぐるみ


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銭洗い弁天に持ち込む洗濯機


優しさは無償ですよと顔の皺


履歴書に怪しい者じゃないと書く


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 致しません私失敗しないので

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 ネットの中で文章がたまたま57577の
 リズムになっているものを偶然短歌と、
 言うそうで、これはそれの川柳版、一時
 人気を博したテレビ番組「ドクターX」こ
 と大門未知子の決め台詞であるが、な
 んと577のリズムになっている。
 その気になって探してみたらこんなものも

 結局はこの世も悪くないところ

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日本を蜂の巣夕立はテロリスト


横槍も竹槍ですかお父さん


殺し合いトムとジェリーに教えられ


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バベルより高い二階からジャンプ


新しい芽はもう出て来ない前頭葉


文学もサプリメントを飲まないと


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獲れたての林檎が浮かぶ無重力


缶の蓋開くと私は食べられる


隙間にも思い出がある四畳半


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神様の方が私を信じてる


ブランコが戻って来ない青い空


コンビニの棚にもそっと置く檸檬


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逆流性食道炎になった牛


だるまさんに持たせてみたい二刀流


J ac k a n d Be tt yも吸っていた大麻


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お菊さんに贈る瞬間接着剤


OをつけHELLをHELLOにしてしまう


兎もう追いません小鮒もつりません


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網棚の網が本物だったころ


デザートの西瓜が鰻に切る仁義


影法師お前のことだろくでなし


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山奥の月も全自動で洗う


人間は野次だと思うソクラテス


居心地が良くて迷ったままでいる


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空千里滅んだものが吹いている


とんがった丸になりたい僕である


ばらばらになった餃子と意気投合


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 本物の息子は電話して来ない

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 オレオレ詐欺が流行り出した頃に
 「瓦版 咲くやこの花」に出した句。
 森中恵美子さんに天に選んで貰い、
 暫くしてネットの樋口由紀子「金曜日の
 川柳」でも紹介された。
 紹介によると、はじめはくすっと笑って
 しまったが、そのあとでしんみりとなって
 しまったところが川柳であるとのこと。

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あの人に貰った夜の水入らず


行間が透きとおるまで書き直し


縦書きの物語かも五月雨


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ビー玉が心を揺らすでもだけど


透明になれると信じ飲むラムネ


雑学がクロスワードで交差する


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シャボン玉小さい方が遠くまで


火の熱さ水の冷たさ生きること


アドレスの@に繋がれる


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引き返してももうそこに花はない


暁の蕾に今日は咲く兆し


前向きな一歩が僕の足を踏む


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玉手箱開けた太郎は無年金


痩せぬよう肥らぬようにかじる脛


机にも膳にもなったみかん箱


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核家族みんな抱いてる不発弾


遺伝子で父に遠隔操作され


蓮根の穴から妻が愛を出す

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つきたての嘘はこんなに甘いもの


この冬は小さい火鉢で越すつもり


携帯を持たぬ王者の黒電話


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盲目の国の片目の王である


ハルカスの一番上に鬼瓦


クレイジーな一夜があればチャラである


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波羅蜜を多めにかけるかき氷


川柳ってフォークソングだったのか


移植したハートのAが出てこない


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砂山のジャックナイフが出てこない


これしきの段差で転ぶスーパーマン


破局までゴジラのテーマ聞きながら


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平成の樺美知子は出ずじまい


このピンを抜いて良いかとテロリスト


ミサイルのボタンいいねに入れておく


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 何かを煮てる密林の鉄兜


 わだつみの声が代弁する命


 靖国に一度も行ったことがない


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 「何かを・・・」は反戦詩人金子光晴の
 詩を読んで出来た句。
 辻 葉さんに「こんな句を作るのは
 あなたしか居ない」と言われたのが
 嬉しかった。

 靖国神社に一度も行ったことがない
 人がほとんどだろう。
 私は一度行き併設されている「遊就館」
 も訪れている。
 霞ヶ浦の予科練平和祈念館と、
 もうひとつ鹿児島県の「知覧特攻
 記念館」。いずれも訪れた日は忘れ
 られない一日となっている。

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雨だれの音が知ってる歌になる


思い出はコミックよりも紙芝居


覗いたら八百屋お七が狂い出す


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風鈴は鳴らさぬように千の風


片思いあなたが遠くなるトライ


砂時計君はきれいなままくるり


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なごり雪貰えなかったチョコレート


絵文字しか描けずお空へ帰ります


天気図の晴れのところに君がいる


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しんしんと雪の椿は喪に服す


落剥の兆しが浮かぶ洗面器


うつ向いて並とつぶやく牛丼屋


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 いよいよ最後にちかづいたが、
 あとがきの代わりに、最近始めた鉛筆画に
 句を添えたものと、最近の心境を詠んだ
 2句を見て頂いて終わりとしたい。

 ご覧頂いてありがとうございました。

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   駆け抜けたブラックレインまでの道程(みちのり)

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    凛として時に繊細 拳銃無宿

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 あの頃の家族弟だけになり

 もう少し二人羽織を着ていたい

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 貧しかったけれど父母と祖父と弟の五人
暮らしの家庭はささやかながら楽しく充実し
ていた。その家族も気が付けばもう弟だけに
なってしまった。今弟とは月に二、三度電話
で昔話をしているのだが、家族がみんな揃っ
ていたあの頃が一番幸せだったといまさらな
がら思うこのごろである。

 考えれば家内とはずっと二人羽織で来た
ようなもので、もちろん手になってくれたのは
家内で私は自分一人では何も出来なかった。
持病が幾つもあって羽織も少しほころんできた
が、もう少しこの二人羽織を着ていたいと思っ
ている。